たまり の心の日記から 第6話 第1回コンサルティング Part2

【霞々の想い】

「さんまんえん、さんまんえん」と唱えていた たまり ちゃんなのね…と今だからこそ笑ってしまうけど、長い黒髪で顔を隠すように、伏せ目がちにうつむく理由がすぐ分かりました。

見てはいけないくらい吹き出物で荒れたお肌と精気の無い瞳は、話し出すそばから涙で潤んで、下を向くたびにぽたぽたとこぼれ落ちて行きます。

身を乗り出さなければ聞き取れないような、涙声のつぶやきと沈黙の繰り返し。
泣きながら溶けて消えてしまいそうな、そんなはかない たまり ちゃんだった記憶があります。

霞々は『病名』はその人のその時の状態を表すシンボルであって、そしてそれだけのことだと思っています。

だから『うつ病の たまり』というような認識の仕方は、霞々の心の辞書には無いのです。

たまり ちゃんの無気力な『ふるまい&しぐさ』も、たまり ちゃんというかけがいのない女の子の本質を現す動作ではないと思うのです。
ふるまいやしぐさが変われば、また たまり ちゃんも変わるのですから。
そして、この状態を続けたくて生まれて来た訳でもないのですから。

人は何かしら変化していくものだから、今現在のお医者さまの診断では、たまり ちゃんは『うつ病』の症状に該当しますよ、ということなのだと受け止めていました。

当時の たまり ちゃんの状況は、霞々にはとても理解し易く、これと言って難しい人間関係だとは思いませんでしたが、当事者である彼女はごく当たり前にご主人の気持ちにこだわり、理解に苦しんでいました。

でも、霞々も含めて、誰もご主人の気持ちを変えさせることは出来ないのですね。
説得して約束を取り付けたとしても、本当の気持ちは彼だけが知っているのですから。
そして、しゃべりたくない人にしゃべらせる魔法も誰も持っていません。

ブラックボックスのように思えるご主人の心を見つめること、見極めようと必死になること、彼を理解しようとすること、これが主に たまり ちゃんを苦しめていた考えのようなので、新しい物の見方の提案をしたのです。

何よりも大切なのは、霞々の方針ではなく、 たまり ちゃんのペースで未来を創っていくことだと思っていたので「いろいろ私が感じたことは伝えたけれど、腑に落ちる事柄だけ聞き入れて、ひとつの情報として使ってね」とお願いしました。

向き合っておしゃべりしていると、ぱぁーっと たまり ちゃんの顔が明るくなる瞬間があります。
霞々の捉え方が正当かどうかが問題ではなく、 たまり ちゃんが主体的に霞々の言葉を自分の心に向けて使っている証拠です。

「思い浮かんだことをおしゃべりしているだけで、保障も責任も取れないの、ごめんなさいね。冷たいようだけど、どこかでしょせん他人事だわ…と思えるから静かに見守れるのよ」と素直にお伝えしてしまう霞々なので、みなさん、洗脳されようがないのでしょう。

霞々自身、 たまり ちゃんのうなづいたりホッとしたりする表情を見ながら、自分の見ているビジョンで良いのか確認を取りながら進めているのです。

本当はみんな心のどこかで、自分の進みたい方向を知っているので、霞々の言葉を聞く姿勢を取りながらも、自分のベクトルと同じイメージの言葉を見つけると、うなずいて自分の力で元気になっていくみたいです。

気が付けば陽は傾き、とっても静かでゆっくりとした時間が流れました。

たまり ちゃんはどんなドラマの主人公役で苦しんでいるのか、流れはどう変えられる可能性があるのか、大きなしくみを伝えた上で
「これ以上一度に聞くと混乱しちゃうからね。霞々は たまり ちゃんの未来の可能性を見ていて、元気になることが果てしなく遠いとは思わないわ。霞々のやりかたがお気に入りなら、またいらっしゃい」
と言ったような気がします。

泣きはらしてうさぎさんのような真っ赤な目で、大切そうにローズの香りのティッシュをクンクン嗅いでいる姿が、とてもとても可愛らしかったのを覚えています。

この状況から たまり ちゃんを脱出させる方法は簡単なのだけど、まだもうちょっと彼女は涙を流していたいようでした。

つらかった一年半分泣かせたとして、私が関わることになったら、どんな栄養剤を点滴しながら場面を急展開していけば、溺れずに彼女は陸までたどりつけるかしら…やり遂げるルートはシンプルでも、解決していく事柄の社会性の多さに考えさせられてしまう霞々でした。

次回予告

第7話 「霞々の不思議な発想」
とりあえずもう一度霞々を訪ねた たまり。
あまりの発想の違いに驚きつつも納得し、かすかな希望の灯がともる。

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