たまり の心の日記から 第9話 優等生の代償

【当時の状況】

物事にはタイミングがあるという霞々の話から始まった日でした。
体調が悪い時は良くなるまでの間『我慢する』のではなく、その時だからこそ出来ることをするというアドバイス。これは難しそう。

雨が降っている間中、我慢して晴れるまで待っているんじゃなくて、雨だからこそ考えられることを考えたり、出来ることをやったりする。
体を休めることも、晴れてばかりいたらきっと動きっ放しで休めないから、雨が降ったら体を休める。お祈りはしてもずっと祈り続けて何もしないのは違うんじゃないかしらって。

1回「晴れますように」「良くなりますように」って祈ったらそれでおしまい。
あとは「さて、何が出来るかな」って考えてみる方法。
お祈りしながら動くという霞々の言葉の意味はわかるけれど、んー…、出来るだろうかと戸惑っていました。

相変わらずの日々、でも気持ちの持ち方が変わったことは確かでした。
前に比べてすごく自分のことを大事に考えて過ごしているし、決して自暴自棄にはなりませんでした。

「今をどう過ごすかが一番大切なことよね。今を上手に過ごせなくて将来を上手に過ごせるのかしら。一日の過ごし方に○も×もないでしょう?そして誰も たまり ちゃんのことをそんな評価の仕方で見ていないと思うのよ。」
と霞々に言われました。

聞きながら、本当にその通りだと思いました。
そして、まだ生活の仕方が成り立っていない小学生のノートじゃないんだから、自分で自分に○×をつけるのはよそう…と思いました。

その時々の自分に見合う物を揃える、という課題ももらいました。
調子の悪い時はこういう食べ物、こういう音楽、というように自分に優しい環境を作っていくという提案でした。

「自分でいろいろなパターンの物を揃えられる人はきっと他人にも揃えてあげられるわよね。素敵なことよね!」
と霞々は嬉しそうに言っていました。
いろんな自分を受け入れろってことかな。

でも、それは出来つつある気がしました。
気分が乗らないな…と思ったらSMAPのビデオ見たり、音楽も色々揃えていたり。気分が良ければパソコンや英語の勉強をしたり外出したり。
でも心がけているともっと毎日を快適に過ごせるのかもしれないとも思いました。

ハードルの設定が高すぎるとも霞々に言われました。
「とっても真面目な優等生でしょ」だって。
でも、そうやって育てられたんだからどうしようもないと思っていました。
いい点数を取ってきたら、もっといい点数を取りなさいと言われたし、常にもっと高い所を望むようにと躾られてきたと思っていたのです。

でも、自分だけにならまだしも、人にもそれを期待してしまうし、仕事場でもよくそうやってたな、そういえば…。
だから、みんな私の機嫌取りをするようになっていたし、いやな性格だと思ってもいました。

でも、これは古い習慣。新しい習慣を身につければいいらしいのです。
その時々の自分を認めて丸ごと受け止めてあげるようにすれば、だんだんそれが新しい習慣になって行くのよ、と言われました。
自分を丸ごと受け止めてくれる人と巡り合う前に、自分自身が自分を丸ごと受け止める必要があるんだ、と思いました。

今日は泣かなかったと思っていたら帰りがけに泣いてしまいました。
私の為に最大限にその日の予約時間を割いてくれている霞々。

「 たまり ちゃんが時計を気にしながら規定時間に急かされて話すのではなく、あなたのペースで、充分に自分の感情を味わいながら話せるように、夜までは予約受付をお断りしているの」

こんなに心配してくれている人がいる。
自分のことを本当に真剣に考えてくれている人がいる。
私もこんなに他人のことを考えられる人になれるのだろうかと思いました。

気持ちは少なくとも1ヶ月前よりも充実しているけど、体も充実してくるのか不安でした。
本当に仕事が出来るようになるんだろうか。
元気に働いていた頃は6時間睡眠だったのに、今は一日10~11時間寝ている日々。
いつ私は目覚めるんだろう。
いつ疲労感は取れるんだろう。
走れるようになるんだろうかと、不安と心配が渦巻いていました。

【当時を振り返って】

先週の霞々のアドバイスどおり、朝お風呂に入ったり足浴をした後で毎日手や脚にマッサージオイルをつけてなでる習慣が始まった頃です。
自分の手でもみほぐすという気力はまだありませんでした。
つけたてと体になじんでからの香りが違うこと、思ったほどベタつかないのが不思議でした。

気分次第で脈絡もなくやることが変わってもいいんだと安心しながら、その時々の感情を意識的にチェックして、それに見合う環境を作り出す努力をし始めていました。
自分一人が悪かったのだという自責の念だけで落ち込むのではなく、ちょっと甘えているけれど、ある部分を親の育て方のせいにすることによって気が楽になったのは確かです。

性格は簡単には変わらないと思い込んでいましたが、霞々に
「古い習慣を新しい習慣に変えればいいだけのことよ!」
とあっさり言われて、やれそうな気がしてきました。

時折脱力感が襲いかかることと、沈むような重くて暗い夢で寝覚めが悪い朝が多いことを、私はひどく嘆いていました。
今だからこそ冷静に振り返り気づいたことですが、当時お医者さんに勧められてメモしていた生活の記録を見直すと、霞々のところに通っていなかった前月と比べ、起床時間は全体的に早まっていました。

そして、母にも「もう会社に行ったら?」と言われ始めていたのです。
にもかかわらず、改善されない部分ばかりを憂いては霞々に訴えていたことに、つくづく自分で設定したハードルが高く、優等生気質だったのだなぁと思います。

ある部分を親の育て方のせいにする一方で、霞々とのセッションで教えてもらったことや、自分で考えてみたことを、毎日丁寧に電話で受け止めてくれていた母へ「ありがとう」「ごめんね」と素直に言えないことが心のどこかに引っかかっていた頃でした。

霞々は、
「本当はその度ごとに言えたらいいわよね。でも、まずは週に2回ぐらいは言えるようにしましょうね。優しい気持ちになれて、自分が好きになる魔法よ」
とアドバイスしてくれました。
この言葉を胸に刻んでようやく初めて母に「ありがとう」と言葉にして言えたことを霞々に報告した時、霞々はまるで自分のことのように心から喜んでくれました。

その頃、夫からはお歳暮を選ぶ件や郵便物の受け渡し等、社会的に必要な時以外の連絡は一切なく、霞々のところに通い始めたこともまだ伝えていませんでした。
1年半もの間私の病状が上向きにならないことに対して、何か有効な手立てを打とうという積極的な提案が夫から出たことは、一度もありませんでした。
そんな夫に、あえて私から連絡を取って霞々のことを伝えようとは思いませんでした。

以前に『夫の一人暮らし先』と伝えられていた場所は、私の元からははるか遠く彼女の住まいの近くでした。
霞々の元を訪れる数ヶ月前に、夫の暮らしを知りたくて最寄の駅まで彼を訪ねたことがありましたが、彼のアパートに行くことは頑なに拒否されました。
なぜ妻である私を部屋に通せないのか、やはり何か隠さなければいけない事情があるのかと、その時は不信感だらけでした。

たまに一緒にお買い物や映画を見たりはしても、私の病気は医者任せで、いつまで経っても夫の自分が妻を何とかしたいという言葉も態度もありませんでした。
夫にも諸事情があったのでしょうが、うつ病と診断され、この時点で1年も会社を休職せざるを得なかった私に対して、社交辞令のように体調を聞くことと、生活費を渡すこと、それが夫としての態度なのだろうかとおぼろげに感じていました。

【霞々の想い】

この頃から「やっと息が胸の下まで吸えるようになった」と伝えてくれました。
精油をブレンドしたオイルを定期的に塗るという習慣のおかげで、精油の刻々と変わる自然の香りに、意識しなくても、深い深呼吸をし始めたのでしょう。

マッサージとまでいかなくても、朝と寝る前のひととき、そして不安な気持ちになったら肌をなでて香りを深く味わう…という たまり スタイルの定着によって、何かが確実に変わり始めていました。

精油を希釈するキャリアオイルと呼ばれる成分は、実際に皮膚に栄養を与え、各種精油とのブレンドにより、 たまり ちゃんの肌は再生され始め、なめらかな質感に変わっていきました。
リンパの流れが良くなるにつれて、むくみや精気の無かった表情がすっきり張りを取り戻していくプロセスの始まりです。

そして何よりも、香りを身にまとうことやお肌のお手入れをすることによって、彼女が女性らしさを取り戻せる喜びで溢れていたように記憶しています。

『人生ほどほどで良い』とは思わない霞々ですが、『少しの変化』に気付けて喜べる人って幸せじゃないかしらとお勧めをしています。
良くなっては来ていても、 たまり ちゃんはまだ雪解け後の新春のような状態でした。

風はまだまだ冷たいけれど、陽射しは日増しに強くなり、桜の蕾もだんだん大きくなっている日々を味わえる人は、春への喜びと希望を感じて暮らせるでしょう。
でも、この時期は陽が落ちたら北風だけでしょうし、桜の蕾もよくよく眺めなければ、ただの冬の枯れ枝にしか見えません。

優等生を維持するには、欠けている部分を認識し、補強して更にバージョンアップしていく作業が大切です。
でも、今の たまり ちゃんには、欠けている部分の再認識よりも、起きているかすかな良い変化の方へ心の焦点を合わすこと、それが彼女の場合、明るい未来を創っていく基本のようにお伝えしたと思います。

そして、その気持ちの柔らかさが、毎日あたたかく見守って下さるお母様への素直な言葉になって、声に出して伝えられたことは、私にとって、とてもとても幸せな報告でした。

次回予告

第10話 「目覚めの予感」
1年半の間、人前に出たその後は
寝込むのが当たり前だった たまり。
そのジンクスが覆される時が
とうとうやって来ました。
その上、霞々から医学書にはない意外な一言が。

コメント